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遺言書でできること

遺言書でできることとできないこと

遺言書で自分の意思を書いておけば,何でもできるわけではありません。遺言書に書いておくことで法律的な効力を持つことができる項目は限られています。

それは次のように大きく4つの項目に分けられます。

①相続に関すること

②財産の処分に関すること

③身分に関すること

④遺言書の執行に関すること


以下,それぞれの項目についてもう少し詳しく説明します。

①相続に関すること

具体的には次のようなことです。

推定相続人の排除・取り消し

将来相続人になる予定の人が,遺言者に暴力・暴言等の問題行動を繰り返し,日ごろから素行が悪い場合などは遺言書で相続人から排除することができます。

気が変わったときには遺言書で取り消すこともできます。

相続分の指定・指定の委託

相続人に法定相続分とは違う割合で相続するよう指定できます。その指定を遺言書で委託することもできます。

この場合,遺留分に注意しなければなりません。遺留分については後で説明します。

特別受益の持ち戻しの免除

「特別受益」とは相続人の中に生前贈与などで財産を受け取った人がいる場合に,その財産も遺産分割の計算に組み入れます。その生前贈与などを「特別受益」といいます。

特別受益を受けた人は,その分をすでに相続財産として受け取ったことになります。「特別受益の持ち戻しの免除」とは,遺言書によって特別受益を相続財産に計上しないようにすることです。

遺産分割の方法指定・指定の委託

残されたざいさんの分割方法を具体的に指定することができます。また,指定を遺言書で委託することもできます。

この場合も遺留分には注意しなければなりません。

遺産分割の禁止

農地や事業用地等,過ぎに分割すると事業が立ち行かない,相続人間でもめそうな場合などは,死後最長で5年間遺産の分割を禁止することができます。

共同相続人の担保責任の減免・加重

相続した財産の価値が,減ってしまった分を他の相続人の金銭で補うことを「担保責任」といいます。

例えば,美術品を相続したが,贋作であって価値がなかったなどの場合です。そういった担保責任の内容を遺言書で定めることができます。

遺贈の減殺の順序・割合の指定

遺贈によって相続分を侵害された人が,遺留分を請求する場合,どの財産から遺留分をい払うのかなどの手順を遺言書で指定できます。

※遺留分とは

被相続人は基本的に自分の財産をどのように処分しようとも自由です。しかし,相続人が被相続人の財産を受け継ぐことを予想していることもあるでしょう。

そこで,被相続人の財産(遺産)の一定割合について,必ず一定の相続人のために確保しなければならないとされています。

この一定の相続人のために確保しなければならない一定割合の財産(遺産)のことを遺留分といいます。

遺留分を認められているのは,被相続人の直系尊属(3分の1),配偶者(2分の1),子ども(2分の1)です。

②財産の処分に関すること

具体的には次のようなことです。

遺贈

遺言書で自分の財産を特定に人に無償で与えることを遺贈といいます。法定相続人以外の人に財産を残すためには遺言書による遺贈をする必要があります。

また,遺贈に関して,「財産を贈与する代わりに,配偶者の世話をせよ」などの条件を付けることもできます。このような遺贈を負担付き遺贈といいます。

財団法人設立のための寄付行為

遺言書により,財団法人を設立することを定めることができます。その場合は遺贈の規定が準用されます。設立は遺言執行者が定められている場合は執行者が,定められていない場合は相続人が行います。

寄付行為を遺言書で行う場合には,目的としさんに関する規定だけは定めておかねばなりません。

信託の設定

遺言書で財産権を受遺者に移転して,財産の信託を設定するものです。

③身分に関すること

具体的には次のようなことです。

遺言書による認知

結婚している男女間に生まれた子どもを「嫡出子」といい,結婚していない男女間に生まれた子どもを「非嫡出子」といって,民法では両者を区別しています。

「非嫡出子」は父親から認知されなければ,法的な親子関係が生じません。そこで,その子どもに財産を相続させるためには認知をする必要があります。

認知は生前でもできますが,遺言書によってもすることができます。非嫡出子は嫡出子の2分の1の相続分しかありませんが,遺言書によってその割合を増やすこともできます。

ただし,死後に残される相続人の精神的な動揺や負担を考慮する必要もあるでしょう。

未成年者の後見人の指定・後見監督人の指定

自分の死後に未成年者が残され,配偶者等の子どもの監護等を行う者がいない場合に,未成年後見人を遺言書で指定することができます。後見人をチェックする後見監督人を指定することもできます。

④遺言書の執行に関すること

遺言執行者の指定・指定の委託

遺言書があっても,相続人がその通りにきちんと実行してくれるかの保証はありません。また,相続人間の全員の同意があれば遺言書通りに行わなくても,相続はその同意に基づいて執行されます。

そのため,遺言書の内容を確実に実行したいのであれば,遺言執行者を指定しておく必要があります。また,指定の委託をすることもできます。遺言執行者は遺言書の内容を実行する義務があります。

子どもの認知や排除について遺言書に記す場合には,遺言執行者を決めておく必要があります。

その他の事項

以上に挙げた者以外でも,次のようなことが遺言書で指定できます。

祖先の祭祀主催者の指定

葬儀の際の喪主,先祖代々のお墓の管理などをしてくれる人を指定することができます。

生命保険金受取人の指定・変更

生命保険契約は被保険者が死亡したことによって,保険金の受取人に保険者である保険会社から保険金支払い請求権が発生するものです。

通常は相続人であっても,受取人に指定されていなければ保険金を受け取ることができません。ただし,遺言書により保険金受取人を変更することはできます。この場合保険会社にあらかじめ手続きを踏んでおく必要はありません。

ただし,具体的に生命保険の内容を詳しく記載する必要があります。相続人の気持などを考えると,受取人の変更は生前にしておく方がよいと思われます。

※道徳的な訓示や自分の家族への思いなどは法的に効力をもつことはありませんが,自分の気持ちや思いを遺言書に残すことで,相続人間の紛争等を防ぐこともあります。遺言者の気持ちは是非付記しておきましょう。

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